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Haruka Yanagisawa / ライター&翻訳業/ 北欧、キャリア、働き方、ジェンダー、コミュニケーションなど

ヘルシンキの雨と通訳者さん

フィンランドに出かける前に何日か日記を書いたのに、フィンランドに来てからすっかり止まってしまっていた。

東京に帰ってからまとめて書こうとすれば、おそらくもっと書かないだろうなと思うので、今日あったことを少しだけ。

今日は朝から天気が悪くて雨模様。空は灰色で、風も強く、気温は12度とか。昨日までの、バキッとした青空とシャツ1枚で歩き回れるあったかさからすごい変わりよう。私はヘルシンキの映画会社を訪ねることになっていた。ホテルのロビーで通訳者さんと落ち合い、訪問先に向かう段取りだった。そして約束の時間に待ち合わせ場所に現れたのは今日の通訳、キリシさん。セミロングの栗色の髪をうしろに束ねた男性である。

我々は自己紹介もそこそこに、早速、ホテルを出発して地下鉄の駅に向かうことにしたのだが、ホテルの玄関口でキリシさんは、遠慮がちにこう言った。「すみません、わたし、雨の中、自転車で来たもので・・・とめてある自転車を取りに行っていいですか」

おお!

「雨の日でも自転車」は、昨年私が翻訳した本「フィンランドの幸せメソッドSISU(シス)」の中で、著者が力説していた「フィンランド人のスタイル」ではないか。ヘルシンキ滞在中は自転車に乗る人をたくさん見たけれど、こうして「ワタシ今日自転車で来ました」という人に会うのは初めて。なのでちょっと、テンションが上がってしまう。

しかしキリシさんはというと、「すみませんね、ほんとにこんな日に自転車乗るなんてバカですよね・・・」としきりに恐縮している。私は、「いえいえ、大丈夫ですよ。翻訳した本にも、そう書いてありましたから」と言い、ついでに、以前から気になっていたことも聞いてみた。「あと、フィンランドの人って、雨が降っていてもあまり傘ささなくないですか?」するとキリシさん、「あー、風が強いですからね。どうせさしてもね・・・」

ほー。私は風が強かろうが自動的に傘はさすものだと思っていたが、そういうスタンスもありなのか・・・。

と、感心しながら5分ほど歩くと地下鉄の駅に着く。キリシさんは自転車を引いているのでエスカレーターが使えない。するとまた彼はしきりに恐縮し、「面倒かけてすみません、エレベーターのほうに乗りますね・・・」と言う。

エレベーターでホームに降りるとすぐに地下鉄が入って来て、我々はあわてて自転車OKの車両に乗った。そこには彼と同じように自転車とともに乗っている男性がいた。朝の通勤時間は少し過ぎている時間帯だが、地下鉄はまあまあ人がいた。といっても、折りたたまない自転車とともにそのまま乗り込めるだけのスペースは十分にある。それに車両の中は、ドア付近の電子広告板に広告が集約されているので、視覚的にスッキリしている。普段、東京の電車内で、壁や天井一面に貼ってある広告でいかに情報の洪水にあっているかを実感する。

電車内では、私はキリシさんに定番の質問「なぜ日本語を勉強したのか?」を聞いた。フィンランドで日本語を話す人に会うと、どうしても聞いてしまうのだ。向こうは、そんな質問、聞かれ過ぎて飽き飽きしているだろうなと思うけれども・・・。彼が日本語に興味を持ったきっかけは、アニメであった。またしても!アニメ率たかし!「要するにオタクなわけですね」とのことだった。

とりわけ何のアニメがきっかけだったのか、と聞くと、エヴァンゲリオンだそうな。その答えははじめてだった。ほかには?と聞いたのだが、「いやーちょっと、あとは色々ありまして・・・」とあまり答えたくなさそうだったのでそれ以上は詰問しないでおいた。「ジブリとかも見るのです?」と聞くと、ジブリはそれこそオタクじゃない人たちも見る、あれはちょっと別の扱いだという。「となりのトトロ」はフィンランドでテレビ放送されたことがあるので特によく覚えているそうだ。

ほかにも、テレビ番組の話をした。私はこの1週間ほどのフィンランド滞在で、寝る前によくテレビをザッピングしていたのだが、「テラスハウス」や「あいのり」的な番組を何度か見たのが気になっていた。(あくまで「的な」であって、フォーマットは違う)。ああいう、カップルができたり別れたりするのを観察するバラエティは人気があるのか、と聞くと、友達の中ではハマって見ている人もいますよ、との答え。「まあ私はその点、完全に処刑されてますけどね、ハハハ」私の聞き間違いかもしれないが、「処刑」とは一体・・・。(縁がないということかな?と思ったが聞き流しておいた・・・)

そんな会話をしているとあっという間に訪問先の会社が入っている建物を見つける。キリシさん、「この”ショボイ”建物かな?」とかいう。そこはおそらく「こじんまりとした」という形容詞が適切なのでは・・・と心の中で突っ込みながらも淡々と進行する。会社の玄関で、靴を脱ぐ。そして彼は、靴だけでなく「私、ズボンを脱ぎます・・・」普通のズボンの上に、雨具としてのズボンを重ねばきしていたのだ。とても完璧な装備!

彼は帰り道でも、地下鉄のエレベーターに乗り込むたびに「私の自転車のせいで・・・」と恐縮していたのだが、そうこうしながらも、フィンランドの原子力発電と核シェルターのことなど、いろんな話を教えてくれてたいへん楽しい時間だった。

彼はどうやら私と同じくらいの年齢だった。日本からの政治家の視察の通訳などもよくやるのだそう。フィンランドの人って外国語の習得力がすごく高いと思います、と私がいうと、それはモチベーションの問題じゃないかという。「とにかくあの頃はアニメに対する思いがどうかしてた」と。私もフィンランド語を勉強しているが、真面目な生徒じゃないので全然上達しない、というと、「そりゃそうですよ、だってフィンランド語なんて勉強しても意味ありますかね〜?ハハ」と、最後まで自虐を繰り広げる彼なのであった。意味、あるよ!

まもなく帰るよ

クマよ…