pic034_Fotor_1215054725_Fotor.png

Welcome!

Haruka Yanagisawa / ライター&翻訳業/ 北欧、キャリア、働き方、ジェンダー、コミュニケーションなど

バレエ写真体験談(エッセイ)

バレエ写真体験談(エッセイ)

昨年(2021年)末に習い始めたバレエについて、エッセイを書きました。これは、「うっとりバレエフォト」という撮影サービスを手がけるフォトグラファー、Kiko(きこ)さんからの依頼で書いたもの。

バレエを習いはじめたことを、なにか記念として残せたらいいなあとぼんやり思っていたところ、撮影サービスを始動させたばかりのKikoさんに偶然出会い、写真を撮ってもらったのがことの発端です。

Kikoさんの柔らかなお人柄、そして、Kikoさん自身もバレエを習っていることなどから、撮影当日はとてもリラックスして過ごすことができ、できあがった写真は想像をはるかにこえて、すてきなものでした。

そんな写真にほくほくしていたところ、Kikoさんから「今回の撮影体験を文章にしていただけませんか?」とご相談があり、喜んで筆をとった(パソコンに向かった)次第です。

できあがった文章は、Kikoさんのお客様向けサービスサイト(スマホ専用)に掲載されていますが、より広く読んでいただけるように、私のホームページに転載する許可をいただきました。ひとときの読みものとして楽しんでいただけたら幸いです。

photo from Unsplash

■Kikoさんの各種SNSはこちら
バレエ専門フォトグラファー Kiko(きこ)
・Twitter:@UNITPIPIPI
・Instagram:@kiko_ballet_photo


 

 


「うっとりバレエフォト」 体験談エッセイ

写真の中で、私は私を好きになる


バレエのレッスンから帰ってくると、視界がいつもより明るく感じます。酷使した体はずっしりと重く感じますが、心は逆に、ほんわり軽くなっています。レッスン中は、音と動きに全集中。だからまるで瞑想のような効果があります。そのときどんな悩みを抱えていても、仕事がパツパツでも、人間関係がうまくいっていなくても、バレエを踊っているときだけは、そこから離れることができる。なんてマインドフルネスな時間なのでしょう。

30代後半になって、ふとした思いつきからバレエをはじめました。子ども時代からおよそ20年のブランクを経ての、再開。当初は、週1回のレッスンでさえ体力的に続けられるか不安でした。が、まったくの杞憂でした。「バレエに行くと、なんだか幸せな気持ちになる」と感じた私は、せっせとレッスンに通うようになったのです。

***

幸せな気持ちに……と書きましたが、しかし、バレエを続けていると、ほろ苦い感情を抱くこともあります。なかなか上達しないもどかしさ、加齢による体の衰え。「もっと膝を伸ばせるようにしなくちゃ」といった建設的な悩みならいいのですが、ときには、どうしようもない煩悩に悩むことも。もっと手足が長かったらいいのに、まっすぐな脚だったらいいのに。あの人のプロポーションや踊りがうらやましい……。「私がこの体で、今更どれだけ練習しても、あんな風に美しくは踊れないんだ」——そんないじけた気持ちが紛れ込むことがあるのも、事実です。

 

バレエを楽しむ「今の私」を残したい

「うっとりバレエフォト」を撮ってもらったのは、バレエを楽しむ「今の自分」を写真に残したいという気持ちからでした。バレエ写真に限らず、自分を(自分の好きな形で)写真に残せる機会って、あまりなくないですか……? 世の中には、普段からちょっとしたお出かけやイベントの際に、ぱっとポーズを決めて素敵に自分を撮れる人もいて、憧れます。が、私はうまく真似ることができません。自分の外見に対する自信のなさや、自分の写真を撮っていると「自分のことが大好きな人」と思われそうで恥ずかしい、というヘンな自意識が邪魔をするのです……。

でも、自分のことが好きで何が悪いんでしょう? 私はKikoさんに撮ってもらった写真を見て、思わず「私、けっこう素敵じゃない!」と思ってしまいました。中でもお気に入りは、楽しそうにジャンプしている写真(私は、跳ぶことが大好き)。写真をしげしげと眺めて、写真の中の自分にちょっと「うっとり」したことを、ここに告白します。

もちろん、写真を見ると、自分の至らない点にも気づきます。でもそれは、今後のレッスンへのモチベーションになる。そしてそれ以上に、人と比べたり、過去の自分と比べたりするのではなく、この写真に刻まれた“今の私”を素直に、恥ずかしげもなく「素敵じゃん」と思えたことが、私にとって大きな出来事でした。

***

バレエをしていると、私は私の体でしか生きられない、という当たり前のことを突きつけられます。私は私の体でしかバレエを踊れない。誰かの体を借りて踊ることはできないのです。だったら(改善すべき点には向き合いつつも)、自分の体を否定するより、うまく受け入れて、自信を持っていられたほうがいいのではと思います。私は、今回、私だけのバレエ写真を撮ってもらうことを通して、自分を受け入れ、前よりも少し自信を持てたように感じます。さらにいえば、「私の人生の主役は私」という感覚がむくむくと生まれて、内面から明るいパワーが湧いてきました。

 

写真の中にはじめて発見した「美しさ」

普段のレッスンでは、自分の姿にうっとりする暇などない……、いやそもそもうっとりできるレベルに踊れないのですが、私は撮ってもらった「うっとりバレエフォト」の中に、今の自分が生み出せる最大限の美しさを発見しました。これまでのどんな写真にも映っていなかった、きらめく瞬間。これを見事に引き出してくれたKikoさんに、心から感謝いたします。考えてみると、そもそもバレエとは、自分の中から絶えず美しさを引き出そうとする行為なのかもしれません。

大人の体での、趣味としてのバレエ。果たして今後、どれだけ上達を望めるのか……。バレエが生易しいものではないことは、重々わかっているつもりです。それでも私は、(私基準での)もっと美しい私に出会いたい。そんな思いを胸に、今週もシューズとレオタードをバッグに詰めて、私はバレエ教室へと出かけて行きます。

柳澤はるか




『TRANSIT 58号 春夏秋冬 フィンランドに恋して』

飯能モニターツアー「森林と源流のリトリート 」

飯能モニターツアー「森林と源流のリトリート 」